2016年の職業能力開発促進法の改正と同時に、セルフ・キャリアドック(以下、SCD)の普及を目的とする厚生労働省委託事業がスタートしました。
委託事業は継続して実施され、2020年度には5年目に入りました。2016年には、キャリアコンサルタントが国家資格になっています。
私は2016年の委託事業のスタートから本年度まで委託事業に参加しています。委託事業におけるSCD普及に対する取組みと企業の現状についてご報告します。
☆委託事業の変遷
・2016年~2017年(SCD導入支援事業)
通常の委託事業は1年間なのですが、導入支援は2年にわたって実施されました。
セルフ・キャリアドックとは何かを定義し、業界や企業規模が異なるモデル企業14社を選定して、SCDの実践プロセスの検証とキャリアコンサルティングの効果を測定しました。
SCDの意義と必要性、導入する目的と効果、職業生活の設計とそのための能力開発につながる導入・実施のプロセスなどを解説する「セルフ・キャリアドック導入の方針と展開」を作成しました。
厚労省HPに掲載されていますので、ご参照ください。また、同時にSCD助成金事業がスタートして、多くのキャリアコンサルタントが面談を実施しました。
しかし、導入の目的やプロセスについて理解されないため、制度として導入して継続的に実施されることが見込めないため1年間で終了しました。
・2018年~2019年(SCD普及拡大加速化事業)
SCDを本格的に導入し、社員にキャリアを考える機会を提供したい会社を支援するため、人事や教育研修部門等の担当者を対象としたセミナー・勉強会を継続して開催しました。
キャリアコンサルタントを派遣したキャリアコンサルティング面談を実施して、効果の検証だけでなく導入に向けての検討を支援する取り組みを行いました。
支援対象企業は2018年度が首都圏と関西圏、2019年度には札幌、名古屋、福岡に拡大し、2018年度に支援した企業の担当者から事例を発表していただき、導入に向けての相談会も開催しました。「セルフ・キャリアドック普及拡大加速化事業 好事例集」が厚労省HPに掲載されていますので、ご参照ください。2019年4月1日に職業能力開発推進者をキャリアコンサルタント等から選任することが法律に明記されました。キャリアコンサルタント資格が国家資格になったため、法律に明記できるようになったのです。キャリアコンサルタントの必要性が高まり、資格取得を支援する会社が増加し、人事部や人材開発部等でキャリアコンサルタント資格を取得する社員が多くなっています。
・2020年(キャリア形成サポートセンター事業)
キャリア形成サポートセンターを全国37拠点に設置して、これまで別々に実施されてきたジョブカードの普及事業とSCDの普及事業を一体として行うことになりました。
キャリアコンサルティングとジョブカードの有用性・効果をより広く認知してもらい、SCDを導入し、ジョブカードを活用する企業を増やすことを目的としています。
2019年度までは、東北方、甲信越、北陸、中国、四国地方の企業にSCDの導入を支援することが出来ませんでした。
本年度は、全国の企業を対象に支援できる体制が整備されました。
本年度は、社内にキャリアコンサルタントがいない企業や教育研修を体系的に実施していない企業などを支援対象として取り組むことが重要になります。
☆企業の現状と取組み
・これまでSCDの導入を支援させていただいた企業には2つの特徴があります。
1つ目は企業内にキャリアコンサルタントまたはキャリアコンサルティングの有用性を理解した社員がいること、
2つ目は人材育成における課題が明確に認識されていることです。
つまり、キャリアコンサルタントという社内リソースのない企業に、キャリア形成やキャリアコンサルティングの意義を理解していただくことがとても難しいのです。
また、体系的に教育研修を行なっていない企業では、人材育成の課題が認識になっていないため、SCDの実施が課題の解決につながることを理解できないのです。
・職業能力開発促進法でキャリアを考える機会の提供が義務化されたことを受けて、社員にキャリアコンサルタントの資格取得を奨励する企業が増えています。
キャリアを考える必要性、キャリア自律の大切さなど理解した社員が在籍し、キャリアコンサルティング面談が実施できる社内キャリアコンサルタントが増えているのです。
SCDを導入できる素地は着実に出来つつあるのですが、資格を取得したばかりで面談の経験が少ない社内キャリアコンサルタントが多いという現状があります。
SCD導入の当初は、社外キャリアコンサルタントの活用を検討する必要がありますが、社内事情や仕事を理解した社内キャリアコンサルタントが面談を行えるよう取り組む必要があります。
ロールプレイよりも実践での相談経験を積むことが面談力を向上させます。
実践での相談経験を積ませる方法としては、新入社員の面談や若年社員の面談といった比較的若年の社員との面談から始めることが効果的といえます。
・教育研修などの人材育成に積極的に取り組んでこなかった企業では、キャリアコンサルティングについて関心を持っていないのが現状です。SCDを説明しても、あまり関心を示してくれません。
そんな企業には、経営課題として認識されている人に関する課題を探索することが効果的です。例えば、「良い人材を採用できない」、「若手社員が辞めていく」とか
「中高年の社員のモチベーションが低い」、「上司と部下のコミュニケーションがうまくいっていない」という課題は多くの企業が抱えています。
SCDを導入してキャリアコンサルティングを行うことで、それらの課題の解決につながると認識できれば、積極的に取り組むはずです。
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