情報のスピードがますます加速する今日、最新の知識やテクノロジーにキャッチアップするため、多くの人が常に学び続ける必要に駆られています。幸い、学び直しの機会には事欠きませんが、逆に何をどう学べば仕事に役立つのか分からない人も多いはず。そこで、学びとキャリアの関係について、BASEを主宰する須田万里子さんが、社会情報大学院大学教授であり、先端教育研究所所長を務める川山竜二(かわやま・りゅうじ)先生にインタビュー。キャリアコンサルタントのキャリア形成にもヒントが満載です。
【川山竜二先生プロフィール】
社会情報大学院大学教授、先端教育研究所所長。専門は、社会理論、知識社会学、専門職教育。筑波大学大学院人文社会科学研究科にて社会学を専攻。専門学校から予備校まで、さまざまな現場で教鞭を執る。現在は、「社会動向と知の関係性」から専門職大学、実務家教員養成の制度設計に関する研究と助言も多数行っている。
目次
• 最大の課題はキャリアの棚卸し
• 学び直しのファシリテーターが必要
• 「学びの軌跡」が問われる時代に
• 最大の課題はキャリアの棚卸し
須田:大学のキャリアセンターで学生の相談に乗っていると、大学で学んでいることと自分の将来像が結びついていない人が多いと感じます。実は大人も同じで、私が川山先生のおられる学校法人先端教育機構の実務家教員養成課程の1期生としてご一緒した同期のなかにも、素晴らしい経験や知識を持っているのに、キャリアに生かしきれていなくて、もったいないな、という方がかなりいました。
川山:学んだ知識の生かし方が分からない、というのが一番の課題ですね。多くの方が近視眼的なのではないでしょうか。目先の仕事ばかりでなく、少し視野を広げて、学んだことを今の社会の文脈に落とし込み、自分の経験や知識をどこに生かせるかを考えていただくといいだろうと思います。
須田:学校を卒業してからも生涯にわたって学び続けようという「リカレント教育」が広がってきて、大人の学び直しの機会が増えているのは結構なことです。でも、自分のキャリアにどう生かすのか、目的のないまま学び続けても、時間とお金がもったいないですよね。
川山:自分のキャリアの棚卸しができていないんですね。私どもの養成課程で実務家教員を目指す方にも、そこをどう修得していいただくかが大きな課題です。実務家として産業界で活躍してきた方が大学教員の職を得るには、「教員調書」というものを書く必要があります。一般企業における職務経歴書のようなものです。この調書を書くのに皆さん苦労されるんですが、その理由の1つとして、やはりキャリアの棚卸しが不十分なことが挙げられます。
須田:調書の書き方の授業は、私にとっても目からウロコでした(笑)。キャリアの棚卸しが難しいのはキャリアコンサルタントもまったく同じです。自分の強みを見つけるために、私たちもカウンセリングを受けることがあります。人の話を聞くプロであるはずのキャリアコンサルタントでさえ、自分のこととなると客観的に見られません。人に聞いてもらって初めて気づくことが多いんですよ。
学び直しのファシリテーターが必要
川山:学び直しの機会が増えるにつれ、自分にどういう学び直しが必要なのか分からない人が増えていくでしょうね。そこをファシリテートする人材が必要だと考えています。こういうときこそ、キャリアコンサルタントの皆さんの出番なのではないでしょうか。リカレント教育のファシリテーター的な役割は、キャリアコンサルタントにぴったりだと思いますよ。
須田:確かにそうですね。それにはキャリアコンサルタントもリカレント教育に対する理解を深めないといけません。実はキャリアコンサルタントの資格を持っていても、活躍の場を確保できている人ばかりではありません。いい素地を持っているのに、埋もれてしまっている人も多い。キャリアコンサルタントの活躍の場を広げる意味でも、ぜひリカレント教育の推進に取り組んでいきたいと思います。
「学びの軌跡」が問われる時代に
川山:私は小学生のうちからキャリア教育を始めるべきだと思っているんです。子供のうちから将来どんなキャリアを築きたいのか考えるよう促し、「それならこういう学びがあるよ」ということを示してあげる必要がある。
須田:おっしゃる通りですね。大学のキャリアセンターで相談対応に当たっていると、大学3年生からでは、正直遅いなと感じます。
川山:ここでいう「キャリア」とは、狭義の職歴という意味ではありません。キャリア(career)にはもともと「軌跡」という意味があります。学びの軌跡を含めて、きちんとファシリテートできる人が必要です。
須田:キャリアコンサルタントは厚生労働省の管轄ということもあり、小中高の学校現場はハードルが高いんです。川山先生のように教育に携わる方々と協働させていただけたら心強いです。
川山:いいですね。ぜひご一緒しましょう。
<対談を終えて>
「キャリア」のファシリテーターが必要だという川山先生のご指摘は、「キャリアBASE」設立に込められた思いとも重なるものがありそうです。一人でも多くのキャリコンが活躍するために、「キャリコンのためのキャリコン」が必要だという発想で生まれたのが「キャリアBASE」。ここで出会い、学び合う仲間が、互いファシリテートできるようになれば、キャリコンの存在価値がさらに高まるはずです。(構成・小島和子)